山村テラスに行ってきました

はじめに

7月の中旬に休暇をとり、長野へ旅行に行ってきました。目的は現地の観光旅行ではなくて一風変わった宿があり、個人的な趣味でその視察に行くことが目的でした。

向かったのは、完全オフグリッドの宿「山村テラス」。長野県の佐久穂町という所にあります。1泊17,000円/人~、連泊すると一日当たり宿泊代△6,000円です。
https://sanson-terrace.jp/

オフグリッドとは、現代社会を生きる我々が常日頃使っている、電気・水道・ガスという基本的なインフラ設備が敷かれていない状態のことです。それだけの状態であれば、タダの山小屋ということになりますが、この宿の面白いところは、電気であればソーラーパネルと蓄電池、水道は井戸水と、代替手段として自給的に調達できるよう工夫していることです。

私自身、家庭菜園を始めて農家の手伝いをするようになったことから、エコフレンドリーなスローライフ生活に憧れを抱くようになりました。また、DIYレベルですが建築にも興味があることから、山村テラスの小屋の構法や設計コンセプトなども気になっていました。小屋を自分で建てた人たちを紹介しているムック本を1年前に書店で購入し、その特集にこの宿の設計者である岩下さんのインタビューが載っていました。その本には様々な事情で小屋を作った人たちのインタビューがありましたが、私が興味を特にひかれたのは、岩下さんのその小屋は宿として一般開放しているという点でした。小屋を自分で建てた人なんてそうそうお目にかかることはできないですし、家を見せてもらうというのはハードルが高いです。そんな中、小屋の作りを隅々まで見る事もでき、田舎の山中で宿泊してオフグリッド体験ができるという、一石二鳥の機会ということで長野まで足を運んでみました。

写真ギャラリー

動画

この動画を見てもらえると早いですね。スマホカメラの撮影が下手でブレブレなのは悪しからず。

なんで行ったの

岩下さんというすごい人


この宿は、岩下大悟さんという方が一人で10年前に創られた小屋です。まず、この時点で色々すごくないですか?一人で小屋を作っちゃうんですよ!?そしてそれも、当時は家づくりの経験はなく、見よう見まねでやったというのだから驚きです。専門的な工具も揃ってない中で手探りの中少しずつ地道に進め、完成までは2年以上かかったのだとか。岩下さんは小屋のすぐ近くの集落に住んでいる地元住民の方なのですが、一人で調べて試行錯誤しながら小屋づくりに取り組み、最終的には完成に漕ぎつげたというガッツに感服しました。年齢から逆算すると20代前半に着手されていると思うんですけど、若さと情熱をもって物事に取り組める年齢とはいえ、素人で一人で小屋まで作り上げられる人は日本広しと言えどもそうそう居ないはずです!


さて、岩下さんが小屋を完成して宿として貸すようになってから、雑誌などのメディアで取材されるようになり、岩下さんの小屋づくりのストーリーを僕もとあるムック本で読んだのですが、完成までの経緯はさらっと書いているので、いかにも簡単に出来た様子に見えるのですが、写真に映る設計、内装や外装、調度品に至るまで、プロみたいなこだわりを感じさせるそんな宿が、DIYかじっている僕から見てもそんな全然簡単に出来るわけが絶対ない(笑)そんな苦労を語らない辺り、岩下さんってクールで職人気質な気難しい人なのかな?って印象だったのですが、予約して会った本人は全然そんな人ではなかったですよ!

オフグリッドの小屋

さらに、この小屋はオフグリッド、つまり電気水道ガスなどのインフラがひいてありません。従って、これらを全て賄えるように工夫しています。電気は太陽光パネルと蓄電池により自家発電、水道はない代わりに井戸水を小屋までひいており、飲料水は麓から数10リットル入りのポリタンクを複数小屋にストックしてあります。調理の際には、カセットガスコンロが用意されています。

オフグリッドといっても、一般の人には実態はインフラが整っていない不便な宿ですので、普通の人間はあまり興味を向けることがない、いわばそこに泊まるのはモノ好きということになりますが、僕には僕なりの理由があったんですね。
この宿に泊まった最大の動機は将来的な暮らしや生活の展望を描くためです。僕はここ数年、半自給自足的な生活にあこがれていて、将来的に田舎の庭先で自給的農業をしながらお金をあまり使わない生活がしたい、と模索しています。
その点、山村テラスで実際に泊まってみて、周辺が山の中でほぼ誰とも会わない自然の一部になる感覚と、オフグリッドの暮らしが本当に自分にとって魅力的なものなのかどうかを確かめたいと思ったんです。

基本、山小屋なので素泊まりプランのみです

こういう宿ですので、料理はもちろん出てきません!という訳でキッチンで調理をきちんとしました(もともと私は自宅で自炊しています)。
自宅から持ってきた食材と、途中の道の駅で買った野菜を使って、おかず1品にみそ汁とご飯を中心として簡単な定食を食べてました。近くにスーパーがあるので、必要であれば買い出しもできましたが、あまりゴミを出したくないのと、制限のある暮らしを体験することが主目的だったので一度も買い物はしませんでした。

食器や基本的な調理器具は備えてあるので持参する必要はありません


カセットコンロは2つ用意してあるので、手際よく料理することができます。そして、調理に必要な用具も揃っているので自炊に困りませんでした。ただし、電子レンジと冷凍庫はないのでそこは注意ですね。一方で、冷蔵庫は一人用サイズであはりますが用意はあります。

オフグリッドでも電気が使える訳

オフグリッドにもかかわらず電気が使えるのは、屋根に備え付けられている太陽光パネルのおかげです。日中に発電をした電力は2回ロフト部にある蓄電池に貯えられるので、冷蔵庫をはじめ夜間の照明やコンセントの電源供給など、快適に小屋で電気製品を使えることができるのです。

2階ロフト部にある蓄電池(手前はBluetoothスピーカー)

自分は2泊3日で滞在しましたが、あいにく2日間ずっと雨が降り続いていました。となると、太陽光パネルによる発電は全く期待できないので、蓄電池の電力は供給される一方です。しかし、そこは宿側の準備はぬかりなく、蓄電池を2台用意してくれていたのです。1台目は2日目の朝に切れましたが、2台あったおかげで不便なく小屋で過ごすことができました。

室内に備え付けのハンモックでくつろぐ筆者

この宿は、いわば森の中にあるぽつんと1軒家です。少し下れば里の集落まで歩くことは可能ですが、事実上、宿の周りは自然以外何もないといっていいでしょう。山の斜面に位置しているので眺望がすばらしく、テラスのドアを開け放ってウッドデッキに出れば、視線の先に茂来山を見ることができます。岩下氏が何故ここに小屋を立てたくなったか気持ちもよく理解できました。

撮影時あいにくの雨で見渡しがあまり良くないですが、晴れていれば向こうの山がくっきり見えます。

おふろやトイレは?

小屋の離れにコンポストトイレがあります。用を足した後に消石灰を巻く仕組みです。お風呂はないので、聞くと近所の温泉を案内してくださるようなのですが、つい最近コロナの影響で近くにあった温泉施設が閉じてしまったようで、車で数十分離れたところの温泉に行かなければならないとのことでした。

「夏場はそこの井戸水を被って体を洗う方もいますよ」とのことで、これも宿の風情を味わうつもりで、自分も2日間、行水で済ませました(申告すればシャンプーとボディーソープを貸してくれます)。

小屋周辺の様子

ところで小屋を出て戸外に向かうと自然の豊かさに驚かされます。井戸水の傍にはフキやサンショウが自生しており、その気になればご飯の足しにすることもできます。少し小屋へ直結する農道のような道路を下り、集落の方へ向かうとあまり私が住んでいる地方とは違う植生が見られ、スマホの写真で植物を自動判定してくれるアプリを持っているのですが、勉強になって面白かったです。

珍しいルリボシカミキリムシが民家の植え込みの境の植物に止まっていました

2泊しての感想は?

仕事から離れてゆっくり2泊できました。僕は1人で泊まったので、誰か一緒に泊まる人がいたらまた違った感想になると思います。

不便さを感じない配慮と、お洒落でスタイリッシュな小屋

オフグリッド=不便という先入観がありましたが、その印象は見事に覆されました。その理由を自分なりに分析しましたが、岩下さんの創意工夫により不便を感じない限度でライフラインを確保する努力をされていることが大きいのかな、と感じました。
例えば、水の確保は生活用水と飲料水で手段を分けています。前者は一日中流れ放題の井戸水(もしかしたら沢水かもしれません)で、体を洗ったり、食器や衣服を洗ったりします。当たり前ですが飲料水の方が希少であるため、料理用としてキッチン、手洗い用、飲用に流し場にポリタンクの麓から用意した水を備え付けてあります。井戸水は飲用には適さないため、使いどころをわきまえた上で飲料水を用意するという区別をしています。
また、電気についても太陽光だけでは今回泊まった状況のように、連日雨が続くと電気が途切れてしまいます。それを補うために、種類の違ういくつかの蓄電池を使い分け、日中に太陽光で蓄えたエネルギーを効率よく放電できるように工夫をされていました。
ガスについては、カセットコンロとガスボンベの組み合わせですが、キッチンにこれが2セットあれば普段の調理も困ることがないなと思いました。まあ、ガスコンロがカセットコンロに置き換わるだけなので、深く考えなくても分かるはずなのですが、こういう機会に体験して考えることで新鮮な気づきになりました。

日の出とともに起き、日の入りと共に終える生活

蓄電池により電気は供給されるといっても、無尽蔵に使えるわけではないので、あまり高出力の電気機器は使わないようにしました。とはいえ、訪れた時期が夏場ですので、エネルギーを沢山消費する機器はドライヤー位しか思いつきませんが。ちなみに、エアコンはありませんので暑いときは扇風機で過ごすことになります。しかし、訪れた時期が7月中旬で、首都圏に比べて5℃位は日中の気温が低い計算で、朝夕はすぐに涼しくなりますから、猛暑日の8月に例え泊ったとしても耐えられるレベルだとは思います。
また、節電をしていると普段あまり意識していないエコロジーへの配慮が生まれてくるようになります。例えば、電気の使い過ぎは停電につながるので辞めようというのは、至極消極的な発想にもかかわらず、電気は使いたいときにいつでも使えて当たり前といった現代人の感覚がここでは通用しないことで、受動的ではあるものの節電が環境への配慮思考と接点を持つ形となります。
そうすると、夜間に電気をつけっぱなしにするのは無駄以外の何物でもないな、と気づきますし、そもそも灯りが必要ならば日中にできることは日中にし、夜は早く寝るのがごく普通の感覚となっています。それは、電気が発明される以前の人類のバイオリズムであり、我々は電気の恩恵に預かっているから夜型生活が成り立つのである、ということにも気づかされます。
現代人は忙しいのが常ですので、こういった日々の暮らしの根幹を考える機会はありません。せいぜい学生が学校の休みの課題で環境問題を考えさせられたり、課外授業で学ぶ位のものだと思います。僕も昔教わった記憶もありますが、私含め大多数の人は「まあ色々問題はあるけど日々の生活は便利だしこのままで良いよね」という意識じゃないでしょうか。
この記事を書いている現在の世界情勢では、エネルギー価格の高騰が問題となっていますが、当たり前の生活が当たり前に続く保証がない世界を、我々は実は生きていたことに、多くの国民が自覚するようになってきています。
私としては、オフグリッドというコンセプトが生まれ、それが話題となったのは、環境配慮に加え、電気などインフラがない生活を、自力調達しながら工夫してどうサバイバルするか、そういった自己防衛的な発想にも影響されているような気がします。
この宿に泊まることで、オフグリッドの生活を体験し、それをただの概念ではなく全身で感じ、学びながら理解を深めていくことができます。岩下さんに聞いたところ、コロナの前はここを訪れる旅行客は外国人観光客がメインだったそうです。長い休暇をとってその間は何もしない、バケーションの思想がある海外の旅行者が、わざわざ日本のこの旅行地でもない宿に泊まりたがる理由が納得できました。

実は岩下さんの自作小屋はこれだけじゃないらしく、近年いくつかの古民家をリフォームしてそれもまた宿として貸し出したりされているようです。それらはまた別のコンセプトがあるらしく、また機会があれば今度はそちらにも泊まってみたいですね。

(備考)アクセスについて

宿まで自宅から行くルートが2通り考えられ、どちらも候補になりうるので迷いました。また、宿から最寄りの高速道路までの距離が比較的あります。
私の家は神奈川県の中南部なのですが、圏央道と中央道を使ってアクセスしました。最寄りのI.C.は宿から相当遠くに離れていて、長坂ICから70km位あります(車で高速降りてから1h30mほど)。帰りは国道299号線を十国峠越えて群馬県入りし、国道462号線にアクセスして本庄児玉I.C.経由で関越道→圏央道で帰りました。こちらはかなり下道を走るルートになり、また山越えとなりますので十国峠付近の県境は道路が狭小で結構な悪路となります。夜には使いたくないですねー。
帰りは圏央道のあきる野~厚木にかけて断続的に渋滞に巻き込まれました。行きは渋滞に巻き込まれなかったのですが、上り方面だと相模原辺りから渋滞になることもあります。ここら辺は曜日と時間次第なところですが、最短距離でアクセスする場合には、神奈川か東京から出発する場合、中央道ルートで須玉I.C.か長坂I.C.で降りる選択がよろしいかと思います。

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